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深町貴子(ふかまち たかこ)

神奈川県川崎市生まれ。
東京農業大学短期大学部卒業
園芸家
有限会社タカ・グリーン・フィールズ 専務取締役
グリーンショップ「GREEN LIFE TAKA」オーナー
東京農業大学短期大学部生物生産技術学科非常勤講師(バイオセラピー論・園芸療法概論)

現在、NHK「趣味の園芸 やさいの時間」講師のほか、NHK「あさイチ『グリーンスタイル』」コーナー講師としても活躍中。
http://www.taka-greenfields.com/site/

■今までのブログ一覧


「芽が出ない…」

2016.06.06 Mon

こんにちは。深町貴子です。

月に一度、こうしてブログを書かせていただいていると、
前回の内容を見ては、季節の移り変わりの早さを感じます。
そして、私たち人間が感じる季節感とは比べものにならないぐらい、
自然界が感じるものは大きく、早く、敏感なものなのだと思います。
あ、私たちが鈍感になっているのかもしれませんね〜

その証拠に、我が家の空き地(空いている鉢)は、
あっという間に草ボウボウ…
カマキリやテントウムシも産まれて、ともかく賑やかです。



冬の間はあんなに静かだったベランダも、
今では毎日草むしりが必要です。
この植物たちはどこからやってきたのだろう?と思います。
風に乗ってきたり、野鳥の背中に乗ってきたり、
培養土袋や苗の中に密かに隠れていたのかもしれませんね。
たまにカラスが落としたカエルや蛇もいて、ギョッとすることもあるんです。
ここは6階だというのに…笑

まあ、どうにかこうにかして、様々ないきものが暮らす我が家のベランダ。
彼らはここで、しっかりと季節を感じて生きているのです。

去年育てたハーブのこぼれ種や、
トマトの実が落ちてタネになり、それが今になって発芽しています。



自分で種まきするとうまく芽が出ないのに、
どうして自然界では上手に発芽するのでしょう?
あるお友達が、何度も枝豆のタネを蒔いているのに発芽しない…と悩んでいました。
園芸書を開き、インターネットでアドバイスを聞き、言われたとおりにやっているのに、
芽が出ない….?なんでだ?
知識はたくさん持っているのに、思い通りにならないというのです。

最初はこうでした。
タネは発芽するときには水が必要なのは、知っている。
休眠打破っていうんでしょ。
タネが水を吸って、目が覚めて発芽するんだよね。
だから土が乾かないように、毎日水をやっているのよ。
なのに10日以上たっているのに、ウンともスンとも言わないの。

ああ、それはさ…
土の中で腐っているよ〜
タネが溺れてしまっているのよね。
確かに休眠中の種子は水を給水することで種皮や果皮を柔らかくし、
発芽しやすいようになります。
水を吸えば、ふやけて膨らみますよね。
種子によって吸収量は異なりますが、
豆類は発芽の際に水分の吸水量が多く、
乾燥した種子の1.5倍ぐらいの水を吸収します。
発芽が始まると、酸素を吸収し、炭酸ガスを外に排出しなければなりません。
水を吸った種子はその後、空気の通りが良い場所でないといけないのです。
つまり、毎日水をやると言うことは、息ができない.....と言うこと。
そのため、種子が溺れてダメになったわけです。



この写真はきちんと発芽していますが、
よく見ると子葉に傷(ひび割れ)が入っています。
これは発芽するまで水分が多かったことを意味しています。

それを聞いた友達は、そうか!乾燥しないといけないのね?
と….タネまきした後に水を切ってしまいました。
すると、発芽しかけたタネはそのまま枯れてしまい、
またもや発芽しません。
も〜どうすればいいのよ!

こぼれ種や雑草種子は、本来はもっとたくさんの種子が散らばっているのです。
しかし、環境条件が揃ったときだけ、たまたま発芽することができているので、
発芽できる条件をひたすらじっと待っているのでしょうね。

園芸は人間がタネを蒔き、人間の都合で発芽させようとします。
でも、条件が合わなければ、発芽はできないのです。
それに、発芽の条件は水だけではありません。温度も大切。
よく、発芽適温(発芽が最もよく行われる)という言葉を聞いたことがあると思います。
タネ袋にも書いてありますよね。
実は、他にも大切な温度があるのですよ。
それは、最高温度(それ以上では発芽しない)と最低温度(それ以下では発芽しない)です。
ちなみに枝豆(ダイズ)は2〜4℃以下、42〜44℃以上では発芽できなくなります。
これからの季節、ベランダのコンクリートは火傷しそうなほど熱くなります。
鉢の中に水分が多いと、鍋の水と同じ….地温は日中40℃以上になります。
最高温度を超えれば限界なので、そのまま煮豆となって死んでしまうこともあるのです。

なんでも「過ぎ」は良くないって事。
水をやり過ぎ、乾燥させ過ぎ、暑すぎ、寒すぎ….などなど。

土の中にいる種子は生きています。
地上に現れていなくても、今はきっとこんな事をしているのかな?
と、もう少し植物に寄り添って考えてみましょう。
いつまでも水がビシャビシャしていたら、排水穴がふさがっていないか確認しましょう。
乾燥しすぎていたら、水をやりましょう。
もしも地温が上がりすぎていたのなら、コンクリートの床面から直接熱が伝わらないように、
スノコや、スチレンボードの上に置くなどの工夫が必要かもしれません。

地面は、地球とつながっているのと同じなので、寒暖差も水分量の変化も自然に沿っています。
しかし、地面から離れてしまっている(高層)場所や、コンテナの中の土はすでに不自然なのです。
だから、ある程度の環境補正を私たちがする必要があるのです。
それには、身の回りの環境をよく知ることが大切で、
状況に合わせて対処することが求められるのです。



ずっと水の中にいたら、苦しそうだな…
土の中はこの植物にとって暑くないのかな?
まずは植物の立場になって想像してみましょう。
すると、きっと声が聞こえてくると思うのです。

今一度、枝豆の種子を見てみましょう。
種子は硬そうですが、種皮は薄く、
水に触れるとすぐにしわが寄って、ふやけてしまうでしょう。
一般的に発芽には十分な酸素が必要です。
種皮を破って酸素が十分にある状態で発芽させると、よく根が伸び、よく芽が伸びます。
だから地上に発芽するまでは、水をやらないぐらいがちょうど良いのです。

さ、もう一度、蒔き直しましょ。
次はきっと大丈夫。








深町貴子